概 要
電力系統の事故波及現象には,脱調現象,電圧不安定現象,周波数異常現象,設備過負荷現象があり,これらの現象を放置しておくと連鎖的に波及し大規模停電につながるおそれがある。その対策の一つとして,系統安定化システムがあり ,電力系統の変化や事故波及の経験と計算機技術・伝送技術の発達により求められるレベルも変化し,一般送配電事業者のニーズや電力系統の特性に応じて,さまざまなものが導入されている。
電力系統を取り巻く環境に目を向けると,太陽光発電などの非同期機の導入拡大によって,慣性の低下などの影響により系統の安定性が低下し,系統安定化制御が難しくなることが懸念されている。
一方で,広域的な電力取引の促進や再生可能エネルギー電源の受け入れ拡大を目指した「日本版コネクト&マネージ」の導入により,電源の偏在化が今まで以上に加速することが予想され,系統安定化制御をさらに発展させていくことが求められる。
そこで,電力系統を取り巻く環境変化に対応するため,系統安定化システムに着目し,環境変化が系統安定化システムにもたらす影響を整理し,その課題と対策について海外の知見を踏まえつつまとめた。
本報告書は,五つの章にて構成されている。第1章では,本専門委員会の設立経緯,研究対象範囲,調査・検討概要などを記載した。第2章では,脱調現象などの事故波及現象について述べ,事故波及が予想される各断面の対応から系統安定化システムについて具体的に紹介した後,系統安定化システム導入の起因となった事例をはじめとする国内外の事故事例を紹介する。第3章では,再生可能エネルギー電源の導入拡大による電源構成の変化や広域運用の拡大による電力系統の変化を述べた後,電力系統に与える影響について整理した。第4章では,第3章でまとめた影響に対して系統安定化システムで考慮すべき課題と対応を述べるとともに,既設系統設備の有効活用に向けた対応を紹介し,電力系統に連系する発電事業者に求める対応についても紹介する。第5章では,今後変わりゆく電力系統の将来像から系統安定化システムの展望について提言をまとめた。