概 要
近年,電気事業を取り巻く環境が大きく変化するなかで,より安価でかつ信頼性の高い電力の供給を確保し,より安定的な社会を保持するための合理的な設備設計が求められている。これは地中送電設備についても同様であり,設備に作用する常時の荷重に関しては,従来からしっかりとした設計がなされてきている。一方で,地中送電設備は,地上の送電設備と比較して地震による被害が経験的に少ないことから,これまでに電力会社間での統一的な耐震設計基準が存在せず,電力各社が個々のルールで耐震設計を実施し,必要に応じて土木学会や他の地中インフラに関する耐震設計基準を参照する現状にあった。
しかし,1995年に発生した兵庫県南部地震を契機として,ライフライン設備の地震に対する防災性の向上が求められるようになった。さらに,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震以後,国の原子力安全・保安部会より「今回得られた知見を含め,地震動および地震動による被害実績のデータの蓄積を図り,必要に応じ民間設計基準の検討を進めることが必要である」との提言がなされた。
これに従い,地中送電設備についても,2014年12月に電気事業連合会に調査作業会が設置され,約2年間にわたって国内の地中インフラ関連の耐震設計基準の考え方や耐震評価の実績などを調査し,耐震設計に関して電気協同研究で取り組むべき課題が取りまとめられた。それを受けて,2017年3月には電気協同研究会に「地中送電設備の耐震設計技術専門委員会」が設立された。本専門委員会は約3ヶ年にわたって諸課題を検討し,このたび地中送電設備の耐震設計技術を体系化するに至った次第である。
専門委員会はつぎの3つの点を基本的な検討方針として審議を進めてきた。
①他のインフラ事業者の基準類の知見を十分に反映すること。
電力の社会インフラとして第三者の視点から透明性の高いものとする。すなわち,上下水道,高圧ガス導管,道路,鉄道,共同溝など他インフラ事業者がもつ既往の基準類の知見も踏まえた内容にする。
②耐震設計の省略を選択肢として持つ実務的な内容にすること。
既設の地中送電設備の多くは耐震設計を行っていない。これは,過去の大規模地震に際しても送電に支障が生じるような設備の被害が少なかったためであるが,この実状を踏まえて,既設の地中送電設備は,なぜ地震の被害が少ないかを定量的に検証することで,今後新設する設備について耐震設計を省略できる選択肢も検討する。
③土木構造物としてだけでなく送電設備が持つ特徴も併せて反映すること。
地中送電設備の耐震設計は,土木構造物に対しての安全性の確保の考え方が主体となるが,そこに収容する地中ケーブルの特徴も併せて反映することで,総合的にみて実用性の高いものとする。
本研究報告書は,専門委員会において検討を行ってきた成果を取りまとめたものであり,電力会社の地中送電設備にかかわる方々,地中ケーブルの製作メーカーの方々および地中送電設備の建設にかかわる方々をはじめ,より多くの皆さまに広くご活用いただくことを切に願うものである。