概 要
通信技術は送電線保護リレーや事故波及防止リレーシステムなどに広く適用されており,保護リレーシステムにとって必要不可欠な要素技術である。
ディジタル形電流差動リレーは,送電線各端子の電流値を同時にサンプリングしディジタル変換・処理して事故判別を行う方式であり,この方式ではサンプリングタイミングの同時性と伝送品質が保護性能に及ぼす影響が大きいため,伝送路設計,保護リレーと通信装置間のインタフェースなどの仕様を定めている。これらの仕様は汎用の通信技術には規定されていないため,低廉な汎用部品を保護リレーシステムに活用できていない。
しかしながら,昨今,通信技術の進展はめざましく,汎用通信技術で高速かつ大容量の通信回線を低コストで構築可能となってきていることから,これを保護リレーシステムに応用することで,新しい保護機能の実現や導入コストの低減が期待される。
一方,保護リレーが設置される電気所構内では,従来,遠方監視制御装置や計器用変圧器・変流器などと保護リレーとの接続には多数の制御ケーブルを使用してきた。しかし,近年では,電気所全体でのディジタル情報伝送の実現による設備形成の簡略化が可能になってきており,保護リレーシステム全体の設計合理化が期待できる。
こうした最近の技術動向を踏まえ,保護リレーシステムの現状や,より合理的な設備形成を目的とした装置仕様,および今後の展望についてとりまとめた。
本報告書は,6つの章で構成されている。第1章では,本専門委員会の目的や調査結果の概要についてまとめた。第2章では,通信技術を利用した保護リレーシステムの概要や用いられる通信機器,保護リレーシステムのうち現在主に適用されているPCM電流差動リレーの要求性能,および保護リレーシステムに用いる通信ネットワークの実態について整理した。第3章では,保護リレーシステムにおいて合理化すべき課題ならびにその解決に向けた取り組みについて記載した。第4章では,今後保護リレーシステムへの適用が期待されるIP技術や通信技術,電気所構内ネットワークのディジタル化の動向についてまとめた。第5章では,保護リレーシステムの設計合理化に資するIPネットワークやプロセスバスなどの技術を適用した際の保護リレーシステムの装置仕様を提案した。そして,第6章では将来の保護リレーシステムに対する展望について記載した。